終演しました:雨上がりには好きだといって

Aug 27, 2022

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寂しい。終わってしまった。

この夏をすべて注ぎ込んだ。というか、これまでの演劇経験をすべて注ぎ込んだ。注ぎ込むことができた環境を得られたことは本当に幸運だと思う。

いい芝居もできたしとにかく楽しかったし、よかったなあ、よくやったなあという幸せな気持ちがあり、この投稿はそれを記すために振り返る記事です。
書いてみて読み返したらスゲー長い。
人に読ませる文章ではない。でもいいや。公開しておきたい。
すごく経験になったし、この経験から次にもつながりそうだし、周りの参考にもなる可能性があるし。

それでは振り返り開始。

「オリキュレールの糸」「レインディアの鼻」という作品がそれぞれあり、私は「オリキュレールの糸」に出演。

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私を含むわずかな人数を除く、ほぼ全ての参加者が学生という、すごく楽しみである一方、楽しくやっていけるのか、貢献できるのかという不安はあった。
結果として杞憂だったわけだが、これまでの経験、公演に注ぎ込んだエネルギーがあったからこそ杞憂で済んだのかなと思っている。

劇団だるいでの経験を活用

劇団だるいで脚本・演出をやってきたことや笑いを取ろうと苦心してきたことが、作品づくりや演出の意図理解、演出提案につながったと思う。
主宰(は大島だが、まあほぼ主宰っぽいことをやっていた)経験も、「団体としてこっちに行きたいんだろうな。だからそのためにこう行動したほうがいいんだろうな」という感覚を助けてくれた。
また、稽古場でふざける人がいっぱいいた(特にサミゾノ)ため、これを参考に、自分なりのふざけ方ができたかなと思う。

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インプロの経験を活用:Impro Theatre

インプロをやってきたこと、その中でも2年半の公演休止期間中もインプロに触れ続けてきたことで、俳優としての能力を維持・向上させられたことは大きいと思う。
特にImpro Theatreの年間プログラムを、毎週金曜午前中という一般会社員的に見ると諦めてしまいそうなスケジュールにもかかわらず、一度も欠席せずに受講したのは自分でもすごいと思う(会社とは事前調整しました。その分、金曜は延長勤務。これがまたきつい)。

毎回、大量のメモを取ったが、最も学んだことは、講師のフィードバックの仕方。
というか、フィードバックという次元ではない。
受講生のシーンを見て、本当に幸せそうにするのだ。
何度も我々のシーンで涙した。
それも、単一の講師ではなく、複数の講師がそんな調子だった。
「この人たちは演劇が、インプロが好きなんだ」と強く思ったし、「この人たちの前で演じれば必ず楽しんでくれる」というのが自信となり、自由に演じられた。

「自由の練習」ができた。

今回の現場では、私がどちらかというと指導者サイドになるので、「シーンを見て幸せになること」を意識してみた。
もともと得意な方ではあるが、ことさら意識的に。
俺の前で演じれば、必ずおもしろくなると思ってもらえるように。参加者のみんなに自由になってもらえるように。

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(画像引用元:Impro Theatre Adds New Main Company Members)

インプロの経験を活用:Platform

とはいえ、技術・経験が豊富とはいえない参加者が多かったため、「具体的にどうすればいいか」で動けなくなってしまうケースも多くあったと思う。
その際に、これまで受講したり開催したりしてきたワークショップの数々(上記Impro Theatreも含む)や、特にPlatformの現場での経験が役に立った。
Platformでは、シーンで課題が見つかると、それを解消するためのワークが即座に提案され、練習した上でシーンをやり直すというケースがよくあったように思う。
非常に実践的な課題解決方法だと思う。ワークの知識・経験はあるものの、青の素の現場で俳優が困った時に即座に切り込むという動き方ができたのは、Platformの現場経験が大きく影響している。

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ファシリテーション(壁打ち)や哲学対話の経験を活用

私が関わっていくのは余計なお世話の場合も十分にありえる。
俳優自身に課題を考えてもらって解消するということも大切だと思う。
が、「どうすればいいんだ」で悩むことが多すぎると嫌になっちゃうと思う。
どこまで介入するか。私も周りも幸せになるようにどう介入するか。介入しないか。
「邪魔になる」「逆効果になる」ことだけは避けようと気をつけたが、どうだっただろうか。

介入した時、最も気にしたのは、私からの情報だけにならないこと。
できるだけセルフ・フィードバックに近い形式にしたこと。
「あんたが自分で言ってるんだから自分で責任取れよ」という風にならないように気をつけつつ、なるべく言葉を引き出し、肯定し、自身から課題を見つけ、試したいことが自身にあればそこで終わり。こちらから言うことはない。
それでも立ち止まるようであれば、そこで初めてツールを提案するようにした。

これは、NPO法人CRファクトリーのサービス「コミュニティ・エンパワメント・ラボ」において「壁打ち」というグランドルールで対話を4か月に渡って繰り返したことや、哲学対話を何度かやった経験が大きい。

そんなに時間をかけられない時もあったし、情報過多にしちゃった時もあったけど。
ただ、時間がかかるようだけど、今までで最も効率の良い演技作りのサポートができたんじゃないかと思っている。
指導者サイドの複数の相反する要求によって、もしくは俳優が持っている課題意識と指導者サイドの意見が相反することによって混乱させると効率が非常に悪くなるので、これを最も恐れた。

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チームとの関わり

周りの学生参加者とうまくやっていくため、稽古場外で食事に行ったりしたいのだが、コロナもあって食事会も慎むことになってしまった。
私を知ってもらい、相手を知り、信用を深めていく作業がとてもしづらい。
そこで、今回の現場で採用しているグループウェアで積極的に関わっていった。
毎回の稽古の感想を全員が投稿するように推奨されており、その投稿には返信ができるようになっている。
自分のチーム「オリキュレールの糸」のみならず、もう一方のチーム「レインディアの鼻」のメンバーに対しても、全ての稽古感想投稿(レコーディング、と呼んでいた)に対して返信するようにした。
これはとても効果的だったと思う。
私はもともと他人にそこまで興味がない人だが、インプロでかなり興味を鍛えることができたと思うし、そのスキルを使って投稿から私が受けた影響を自分自身で再評価し、レコーディングに対して共感、鼓舞の姿勢で返信ができた。

この時、「アドバイス」はしないようにした。
しちゃったこともあるけど、相手がどう受け取るか、むしろ邪魔をしないかをすごく気にして返信した。
ともかく、「なんか褒めてくれるオッサンがいる」というレベルにはしておきたかった。作業自体も楽しかったし、なんかいい効果を生んだ気がしている。
もっとおもしろく返信できたかもなあ。でもまあ、いい感じでできたのではないかと思っている。

自分の演技

自分自身の演技としては、これまでで最も興味深いモノローグができた自信がある。

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立場もあり(学生主体の公演だから)、あまり作品中に出番はないのだが、3分のモノローグを与えてもらったのはありがたかった。
これを「自由にやる」「台本を大切にする」「想像の世界でリアルに生きる」「努力する」という4つのアプローチを使い、最終的に「観客とつくる、でも固定セリフのモノローグ」という新しい扉を開けたと思う。

「自由にやる」は自分の欲求や発想を止めないということ。
やってみたい動作、調子、声の出し方、沈黙、発言など、やりたいようにどんどんやる。
序盤はこれで作っていった。
すると演出から「台本を大切にしてください。この台本は、句読点に至るまで、俳優が言いやすいように作られてますので」という意味の指摘をもらった。
また、スタッフから「おもしろいことをしようとしている人に見え、おもしろい人には見えない」という意味の、ちょっと落ち込みかねない指摘ももらった。
いや、建設的に受け止められたんでよかったけど。(こういう能力も上がったな、、、)

「台本を大切にする」は次に取り組んだこと。
台本を一言一句、何度も読む。
毎日、少なくとも1回をノルマとした。
仕事なり他の作業で「忙しくて練習できない」という気持ちもあったが、それでも少なくとも1日1回は必ずモノローグをやる、と義務付けた。
就寝前の自宅、シェアオフィス近くの人通りの少ない路地、会社社屋の階段の踊り場などで、少なくとも1日1回。
1回やったら、2回やるんよね。そして、脳に残る。非常に効率的にやれたと思う。

「想像の世界でリアルに生きる」というのも同時に取り組んだ。
特に、語りかける言葉であるため、語りかける対象の人、空間を意識した。
まあ、全然安定しなかったけど。毎回、対象の人、空間の特徴が変わってしまう。
とはいえ、ある程度の収束は見えたからそれでいいかなと思う。やり残したことはあって、役に対する多面的な考察を明文化するのが不足したかなと思う。
もっと細かく役の「身上調査書」を記載してもよかった。店長も灰田先生も。

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最後は「努力する」。 稽古終盤まで、いくらやっても、満足できるモノローグはできなかった。(ウケは取れたけど)
最後は努力しかないなと。1日1回以上音読するという縛りから、1日1回以上、録画・公開するという縛りに変更した。
これはまあまあな負荷だったが、非常に効果的だった。
誰かに見られるという気持ちから、噛みまくったテイクは破棄するので自然と練習回数は上がるし、公開前に自分で見直すから客観的に自分の演技が分かる。
また、「同じバージョンを見ても誰も楽しくないだろう」と、いろんなテイストでモノローグをやってみた。
悪の組織風、爽やか風、右手に魔物が潜んでる風、など。これも効果的で、テイストごとに発見できることがある。
セリフの意味に、多面的に気付ける。

そして、稽古場や小屋など、声を出せるところでひたすら音読する。
これは、カムヰヤッセン「レドモン」でクロムモリブデンの板倉チヒロさんと同じ現場になった時、チヒロさんがこれでもかとひたすら音読しまくってた姿を見て、俺も真似しようと思ってやってみた。
いや、当たり前の練習法ではあると思うが、何度もやると飽きる。って思ってたが今回は全然飽きなかった。
毎回、発見があったし、やればやるほど自信が積み上がっていくのが分かった。

その結果、本番では、観客と対話しつつ固定のセリフを言うという、これまでにない体験をした。
これまでは「こう言えばウケるだろう」を作り込んで本番をやっていた。
もちろん、笑い待ちや、「あっ、今伝わらんかったな」と感じ取って補足することはやったけど、もっと良い意味で不安定だったと思う。
ひたすら体に沁み込ませてきたセリフと役があるので、未知の入力情報があっても驚かない。
むしろ、反応するようにセリフと役でお返しし、また未知であった入力情報を受け取る。
観客とインプロしてる感覚で固定セリフのモノローグができた。自分でもスゲー気持ちよかった。

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結び

自分が必要とされるよう、貢献できるよう、背中で引っ張れるよう、色々と手を尽くした。
兎にも角にも稽古時間を確保するため、あらゆる手を使った。

リモートワークが主流になってくれたのも大きかった。
会社が契約するシェアオフィスがいろんな駅にあり、昼休み中に稽古場に最寄りのシェアオフィスに移動して午後はそこで勤務し、終業・即・稽古 (悪・即・斬みたい)という手を使った。

自身のコンディションにも気を使い、黒酢・黒ニンニク・南インドのスパイスを毎日少しずつ摂取。胃腸はなるべく休ませる。ヨガとボディスキャンは毎日やった。
なんせ、このご時世、発熱したら相当ヤバい。免疫力を最強に維持し、生活を続けた。

公演の2週間ぐらい前に息子が発熱したのはマジで焦った。
検査の結果、コロナは陰性で、手足口病と診断された。
数年前、娘が手足口病だった時、私にも感染し、数日歩けないほどの状況に追い込まれたので、手足口病は、それはそれで焦った。
全力で免疫力を上げ、切り抜けることができた。

2人の子どもを育てている。
妻の多大な協力があり、私は演劇ができた。
今回の青の素は、もともと強い興味のあった団体なので、出演の話がきたときに「オッシャ来たァ!」とテンションが上がった。
妻には「出ていい?」と質問するというよりも「出させてほしい」とリクエストした。
今後の演劇事業、特に演劇教育に良い影響が見込めるという説明もしたが、とにかく「出たいです!」という気合が強かった。
OKをもらい、こんな長文が書けるぐらいの経験をさせてもらった。

幸運、それに尽きる。
主宰の猪熊さんに声をかけてもらったこと、家族のサポートがあったこと、座組が温かかったこと、これまでの経験があったこと、私を含む全員が健康のまま公演に突入できたこと、いい芝居ができたこと。
もちろん書き出せばミスや課題はいくらでもあるけど、それを覆い尽くすほどの喜びを与えてもらいました。取りに行けました。

今後も恩返しをしつつ、自分も楽しんでいこうと思います。


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